![イメージ 1]()
Edward Chancellor
[ロンドン 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 量的緩和と超低金利は、今もまだ当初の約束を果たせていない。マイナス金利の効果は、さらに期待外れで終わっている。先進国の経済成長はあいかわらずパッとせず、各国中央銀行の当局者は、しつこいデフレに頭を抱えている。
こうした状況下、金融実験室が生み出す次の作品が、いわゆる「ヘリコプターマネー」であっても不思議はない。空から大量の現金をばらまくことで経済の問題を解消するかどうかはさておき、想定される結果の1つは、金融資産の大量破壊である。それを思えば、これほど多くの投資家があのような政策を激賞しているのは驚きと呼ぶほかない。
中銀当局者(そしてその一挙手一投足を執拗に追いかける投資家)たちの見える範囲では、自らが繰り出す金融政策の実験結果を予想することはできないことは、今や当たり前となっている。
グローバル金融危機以降、金融当局が証券を買い入れ、ゼロ金利政策を導入したことで、富の格差拡大や、年金の支払い不履行、生産性の低下、デフレなど、予期せぬ多くの影響が生じた。
何よりも、欧州と日本が導入したマイナス金利は、意図していた効果とは真逆となる、現金資金の退蔵を促し、同時に市中銀行の貸出意欲を減退させてしまっている。
他のすべての政策がうまく行っていないように見えるだけに、「ヘリコプターマネー」というアイデアは支持を集めている。これは1969年に経済学者ミルトン・フリードマンが生み出した用語で、実質的に国民に直接現金をばらまくことにより、インフレと経済生産を加速させるというアイデアを指している。
複数の投資家が、このアイデアを支持する意見を表明している。かつて「債券王」の異名を取った、資産運用会社ジャナス・キャピタル・グループのビル・グロス氏は、最新の月報で、ヘリコプターマネーの近日実施に楽観的な態度を見せている。
「ヘリコプターマネーは乱暴な終わりを迎えるだろうが、だがそれをやらなければ緊縮というリハビリがすぐに到来し、長期リセッションに突入するだろう」。13億ドル規模の「ジャナス・グローバル・アンコンストレインド・ボンド・ファンド」を運用するグロス氏は先月、こう書いている。「政府と中央銀行は、死ぬくらいなら飛んでみる方を選ぶのではないかと思う」
だが、グロス氏をはじめ、中央銀行の実験的手段として最後に残された「ヘリコプターマネー」を主張する人々は、この革新的な政策が金融市場にもたらす潜在的な悪影響について十分に考え抜く必要がある。
「ヘリコプターマネー」に熱を上げる人には、いくつかの思い込みが見られる。第1に、この作戦が行われる経済には、余剰生産能力がたっぷりあるものと想定されている。第2に、現金のばらまきによって生み出されたインフレが制御不能になることはないと想定されている。第3に、どこからともなく現金を生み出すことで逆に経済的に苦しくなる人々はいないものと考えられている。
つまり、ヘリコプターマネーはコストのかからない、いわゆる「フリー(無料)ランチ」だと思われているのである。GAM(ロンドン)でストラテジストを務めるマイケル・ビッグス氏がこの政策を主張する最近の記事タイトル「ヘリコプターからマナが降る」で示唆したように、神からの授かり物なのである。
だが、こうした想定は疑わしい。まず、ある経済の余剰生産能力をリアルタイムで正確に測定することは難しいことで有名である。近年の先進国経済が伸び悩んでいるからといって、活用されていない資源が大量にあるとは限らない。
むしろ、金融緩和時期に資本配分が適切ではなかったこと、また先進国市場において低調な投資水準が維持されたことで、潜在的成長率が低下した兆候かもしれない。従来の通念が米国など先進国における余剰生産能力を過大評価しているとすれば、いくら多量の現金を投下しても、短期的にはそれほど成長を刺激しないだろう。
こうした状況では、ヘリコプターマネーは予想されるよりも大きな価格上昇を引き起こす結果となろう。インフレが実現するとして、なぜそれが中央銀行の目標である2%付近で推移するはずだと言えるのか、その理由ははっきりしない。
要するに、ヘリコプターマネーが中央銀行にとって最大の悪夢、つまりインフレ期待に「歯止めがきかない」事態となっても不思議はないのだ。
ヘリコプターマネーの支持者が約束する「ランチ無料券」にも疑問がある。資本主義のシステムは、膨大で複雑な、相互に関連するバランスシート網で構成されている。その名前が示すように、バランスシートは「収支が合う」ことを想定している。
ヘリコプターマネー主義者は、中銀はこの原則の例外だと主張する。何しろ、米連邦準備理事会(FRB)など各国中銀は、紙幣を印刷して負債を返済することができるのだ。こうした考え方で行けば、会計上、中銀が債務超過に陥っているとしても何の問題はない。
これでは何だか話がうますぎるように聞こえる。なぜなら、そのとおりなのだ。ヘリコプターマネー実施後、中銀のバランスシートが「バランス」しない場合、その損失は誰かに転嫁されなければならない。
唯一の問題は、それが誰かということだ。最初に犠牲になるのは資金の保有者、つまり銀行の預金者である。パイ・エコノミクスのティム・リー氏が書いているように、ヘリコプターマネーは「純粋なインフレを意味している。それは単なる貨幣価値の破壊である」
もう1つの潜在的な犠牲者は銀行である。銀行は、中銀がゼロ金利しか支払わないとする準備預金の維持を義務づけられているからだ。
さらに、もっと心配なのはインフレ期待の上昇が債券市場に与える潜在的な影響である。近年、短期金利がゼロ近くまで低下する状況に対して、投資家はより償還期間の長い、高利回りの債券を購入することで対応してきた。デュレーションのエクスポージャーが増大しているため、長期金利が比較的小幅に上昇するだけでも、巨額のポートフォリオ損失につながる可能性が生まれている。
さらに、ブリッジウォーター・アソシエイツなどのヘッジファンドが推進している、人気の「リスク・パリティ」戦略によって、多くの機関投資家が債券市場でレバレッジ・ポジションをとっている。これによって長期金利が予想外に上昇した場合の投資損失の見込みが膨れあがっている。
債券市場が総崩れになる可能性は、投資銀行が伝統的なマーケットメイクの役割からの撤退を進めているという事実によって、さらに増大している。流動性が枯渇するなかで、債券市場はますます不安定になっている。ヘリコプターマネーの投下後に長期金利が急上昇すれば、低金利時代に市場価格が上昇した資産、つまり株式、不動産、ジャンク債や新興市場債などさまざまな「キャリートレード」対象の商品のほぼすべてが潜在的リスクに晒される。
インフレ率の回復と金利上昇は、先進国の硬直化した経済にとって、何らかの長期的な利益をもたらす可能性は十分にある。インフレ率の上昇は、多年にわたって積み上がってきた過剰債務の負担を軽減してくれるだろう。資産価格の崩壊は、かつてないほどの資産格差の拡大傾向を急激に反転させる。住宅価格はもっと手頃になる。金利上昇によって年金基金の支払い能力は改善され、保険会社の苦境も緩和される。
長期的には、金利上昇は資本の配分を改善し、生産性と所得の成長を加速させる可能性さえある。
だが、理論上は経済的メリットがあるにもかかわらず、ヘリコプターマネーの実施は金融市場の大混乱を招く可能性がある。この政策を推奨している投資家は、自分たちが公共サービスに携わっていると思っているのかもしれない。だが、投資家の仕事は投資リターンを確保することだ。中銀の「ヘリコプター」部隊が離陸する姿勢を見せているなかで、その仕事はひどく難しくなろうとしている。
=========================================================
優れた記事があったので転載しておこう。現在、主要国の中央銀行のリフレ政策の限界と弊害と今後の可能性についての冷静な分析と推測という意味で何度か読んで、自分の頭で今後の世界の動向を想像してじっくりと考えてみてほしい。
「資本主義の終わり」が叫ばれて久しいが、グローバル化した金融市場は現物市場の5-10倍ぐらいのロットとスピードで、過去の金融定理をことごとく覆しつつあり、政策の有効性に大きな疑問符を投げてきたのは周知の事実だろう。さて黒田は次はヘリを本当に飛ばすだろうか?
土曜日の4時からは伊豆長岡温泉にある「弘法の湯」という立寄の岩盤浴に行く。1000円で7時間いられるとても安い温泉だが、バドガーシュタイン鉱石と北投石の浴槽のあるラジウム鉱泉だ。軽い被爆をする(ラジウム)のだが、ホメオパシー効果というのがあるらしい。毒を持って毒を制すという考えかたなのだろう。末期ガンの患者が車椅子で来て、歩いて帰るというそういう不思議な効果があるらしい。
インフレで土地や株式が買われる(上がる)とすれば、デフレでは売られる(下がる)ということである。ここにきて2012年の安値を下に切ったものが散見される。エネルギーコストの暴落と需要の激減がそれを引き起こしたまさにグローバルデフレである。
麻生副総理は「金が無いんじゃないんだ、需要が無いんだ。」と言う。64億の豪邸に住んだらきっとそうなんだろうが、家賃6万のアパートに住む多くの人たちは「需要の問題以前に、俺たちには金がないんだ。」ときっと言うのだろうと思う。
黒田の出番があれば、日本は相当に革命的な国家ということになるのだが、、、。